たろちんの感情の奴隷ブログ

やむを得ず社畜と化したたろちんが、お金にならない文章を思いついたときにだけ更新されるプレミアブログです。

将棋界の藤井フィーバーについて藤井ファンが今こそ大声で伝えたいこと

ここ数年、会う人全員に「将棋おもしれーんすよ」「それ将棋で言うと矢倉みたいなもんですねwwwww」などと言い続けてそのたびに「ふーん」という大変好意的な反応をいただいてすっかり心が穴熊と化した僕ですが、最近僕が何も言わなくても将棋の話を振ってもらえるようになりました。藤井聡太とかいう将棋のやべーやつが将棋界に降臨したからです。

みんなは僕に言います。「藤井くんっていうのがすごいんでしょ」「将棋の時代きたね」と。だから僕は「そうなんすよ!藤井くんは奨励会時代からめちゃくちゃ注目されてて小学生のころからプロも解けなかった詰将棋を解いたりしててー!」とここぞとばかりに早口で語り始めて、とはなってません。斜め下を見ながら「うん……」とエロ本をお母さんに見つかったときの中学生のようなテンションでつぶやくにとどまっています。なぜか。

それは藤井くんが想像以上に強くて「やりすぎだろ……」とちょっと引いてるのもあるけど、それ以上に僕にとって「将棋の藤井」といえば藤井てんてーのことだという思いがまだ強いからです。



「てんてー」こと藤井猛九段

藤井猛九段は将棋ファンなら知らない人はいないすごい棋士で、めちゃくちゃ優勢になってからとんでもないポカをして負けることなどから「終盤のファンタジスタ」「てんてー」の異名を持つ棋士です。終始ニヤニヤしながらおもしろいことをつぶやき続けるシュールな解説も人気で、終盤になると「これは大体詰みです、たぶん」などとたちまち曖昧になる様子はプロ棋士とは思えないほどキュートで、よく「終盤は藤井が聞け」などと応援のコメントが飛び交うほどファンに愛されています。今、褒めようと思ったのに完全にお伝えするエピソードを間違えたことに気付きました。

もちろんガチの実績もあります。代表的なのは名人と並ぶ棋界最高のタイトル「竜王」を3連覇したこと。それもめちゃくちゃ脂がのってる時期の谷川、羽生といった怪物をぶっ倒しての竜王3期在位です。サッカーでいうとレアルやバルサを倒してガンバ大阪が3年連続世界一になるみたいなもんです。ちょっとまた無意識にプチdisが入った気もしますがそれくらいすごい棋士だということです(余談ですがてんてーの「羽生さんと指すときは『なんか強いオッサン』くらいに思うといい」という言葉は深浦九段の「羽生さんと殴り合いの喧嘩をしたら僕が勝つ」と並ぶ将棋界大名言だと思います)。

藤井てんてーは終盤は確かにアレですが、序盤に関してはとんでもない天才で、例えば人類代表を1人選べと言われれば大体が「羽生さん」と言いますが、将棋を「序盤」「中盤」「終盤」に分けてオールスターを選べと言われたら「序盤」はあの羽生さんを凌いでてんてーが選ばれるでしょう(僕調べ)。てんてーはマジで将棋に革命を起こす序盤戦法の数々を産み出しまくっていて全部震えるほどかっこいいのですが、特に竜王獲得の原動力となった「藤井システム」はやばいです。

僕は将棋の棋力自体はゴミなので一番かっこいい部分だけお伝えしますが、プロ将棋で「居飛車穴熊」という作戦がめちゃくちゃ強いとされた時期がありました。王様をめちゃくちゃ固めてからゆっくり攻める戦い方で、武士みたいな棋士しかいないころは「穴熊なんか指すやつはダセー」と言われてたのですが、空気の読めない最近の若者棋士がプロになってくると「ダセーとかカンケーねーし」などと即物的なことを言って勝ちまくるので将棋界に空前の居飛車穴熊ブームが訪れました。もちろん棋理的にはつえーのでダセーとかカンケーねーのですが、「同じような将棋ばっかりでちゅまんない」というエンタメ的な視点で悲しむファンもいたと思います。

一方、藤井てんてーは生粋の振り飛車党でした。振り飛車党というのは最初のほうで絶対飛車を逆に動かしてから将棋をしないと死ぬ一族のことで、その振り飛車こそまさに居飛車穴熊の格好の餌食でした。現在のプロ将棋で圧倒的に振り飛車党が少ないのもこのへんが関係しているみたいです。

そんな流れの中で「絶対振り飛車で勝つ」と頑固な鰻屋の親父みたいなことを言い出したのが藤井てんてーです。そして伝説の戦法「藤井システム」が生まれます(正確な流れはちょっと違うのでWikipediaとかを読んでください。僕はこれを読むだけで泣けるレベルの感動的読み物です)。

居飛車穴熊絶対殺すマンとしての「藤井システム」の最もすごいところは将棋の常識を真正面からぶっ壊したところです。例えば将棋には「居玉は避けよ」という格言があります。「アホみたいに攻めることばっか考えないでまずはちゃんと王様を守るんだよ」という基礎中の基礎「囲い」の概念を伝えたもので、穴熊などはまさにその究極系と言えます。しかし。

藤井システム」とは「居玉のままいきなり攻めて穴熊ができる前にぶっ潰す」という将棋の根本的な考え方を覆す革命でした。てんてーはこの藤井システム谷川竜王から4-0のストレートで竜王のタイトルを奪い、将棋界にてんてー旋風を巻き起こしたのです。

この「藤井システム」はそのあまりの独創性と緻密さから「藤井にしか指せない」とまで言われた戦法でした。ただそれだと他の棋士も負けて困るので死ぬほど対策をされて徐々に表舞台から姿を消していくことになります。かつて独創的な戦法を生みまくった舛田幸三実力制四代名人の「新手一生」という言葉が、研究のスピードの速い現代では「新手一勝」になってしまったというのは有名なお話です。

これが僕の伝えたい「劇場版 藤井システム」の全てですが、ちょっとだけ後日談があります。根強いファンを抱えつつもタイトルなどの第一線からは少し退いていた藤井てんてーは2016年の銀河戦というテレビ対局トーナメントで突然藤井システムを連続で採用。まさかの優勝を果たして多くの藤井ファンが「藤井銀河!」「藤井ギャラクシー!」と狂喜乱舞しました。

そして2017年の3月に行われたニコ生の非公式戦「獅子王戦」で、羽生三冠が藤井聡太四段を相手に「藤井システム」を採用。間接的に「藤井VS藤井」の対局を実現させ、見事に若いほうの藤井くんを撃破してみせました。

非公式戦なので今話題の藤井くんの連勝記録には全然カンケーねーのですが、藤井ファンはこっそり「まだまだ『将棋界の藤井』の座はお前には渡さねーぜ」と溜飲を下げたりしたのです。当の藤井てんてー本人は「藤井くんとは負けるからやりたくない」とか言ってますが、将棋界にはすごい藤井が2人もいるんだ、ということをこのブームで将棋に興味を持った人にちょっとでも覚えてもらえればてんてーファンとしては嬉しいです。

真の「藤井VS藤井」対決が実現する日も楽しみにしています