たろちんの感情の奴隷ブログ

やむを得ず社畜と化したたろちんが、お金にならない文章を思いついたときにだけ更新されるプレミアブログです。

面白い将棋小説まとめといたよー

有名どころの将棋小説を一通り読んだのでまとめてみました。星3つを満点に個人的な好みの評価もつけてます。

『盤上の夜』宮内悠介 ★★★

囲碁、将棋、麻雀、チャトランガなどボードゲームの短編集。著者は囲碁好きらしく将棋成分は少ないけど、盤上遊戯の魅力が詰まっていて小説としておすすめ。現在はコンピュータに完全解析された「チェッカー」でぶっちぎりの強さを誇ったチャンピオンの話『人間の王』と、ブッダラーフラの親子関係からチェス系ゲームの発祥を描いた『象を飛ばした王子』などが好きでした。

サラの柔らかな香車橋本長道 ★★

「あうあうあー」系天才美少女サラの少年ジャンプ的天才ぶりを見て、プロ棋士の世界を夢見て挫折した色んな凡才たちがしょんぼりする話。他の将棋小説でもこの「才能」というのは必ずポイントになるけど、そこに特化してコンパクトにお話がまとまってる。負け組感溢れる雰囲気も好きだしサラの無双感とか最高に爽快なんだけど、オチがなぜか「皆それぞれの幸せを見つけました」的な打ち切り漫画みたいな感じでちょっと置きに行ったのかな、という印象。

『盤上のアルファ』塩田武士 ★★★

性格の悪い将棋記者と性格の悪い無職のおっさんの話。片方は事件記者に挫折し、片方は奨励会時代プロ棋士に挫折してる。二人の変な共同生活とか会話にはギャグもふんだんに盛り込まれていて笑えます。二人とも嫌なやつのままなのに、読んでるとだんだん好きになってくるというのがいい。キャラ、ストーリー、負け組感という小説の醍醐味が詰まった上に、将棋というゲームの人間臭さと熱さも描かれていて一番ツボに入りました。

『聖の青春』大崎善生 ★★

幼少の頃から難病を患いながらA級棋士に登り詰め29歳でこの世を去った村山聖九段を描いたノンフィクション。漫画『月下の棋士』や『3月のライオン』の登場人物のモデルにもなってます。「わしゃ名人になるんじゃ」といって暴れたり「結婚したいよー」と言ってしょんぼりしたり意地でもお風呂に入らなかったりと人間味たっぷり。どうしても「泣ける」って評価になりがちだけど、「お前それ人としてどうなん?」という部分もたくさん描かれてるのが本書の魅力だと思います。

『将棋の子』大崎善生 ★★★

プロ棋士を目指したものの年齢制限で奨励会を退会し、今ではおっさんになった人に作者が会いに行くノンフィクション。主人公は将棋しかできないピュアピュア童貞野郎みたいなおっさんで、愛嬌はあるんだけど生活とかどうしようもなくって、田舎帰ってパチ屋で働いていい年になってから年上の人妻と惚れあって初めて女を知って……みたいな胸がキューっとなる負け組感。「こいついいやつだけど幸せになれなそう」っていう悲しい共感と、そこに鈍感であっけらかんとした主人公の振る舞いで個人的に一番泣けた。他にも奨励会を退会した人間のその後がたくさん紹介されていて、ケンカしたり旅人になったりしていてどれも興味深いです。

真剣師 小池重明団鬼六 ★★

プロ棋士より強かった伝説の真剣師小池重明の生涯を描いた伝記小説。真剣師っていうのは賭け将棋をやって暮らす裏世界のプロ棋士的なもんで、簡単に言うとアカギです。ユーモアもあって腰が低いのに、酒と女が絡むと途端に恩人の金を盗んでバックれるなどナチュラルボーン破天荒な生き様な反面、将棋に関しては恐ろしく強かったというところのかっこよさが混ざり合って最終的に小池重明は爆発して死にます。嘘です。でも読後感としてはそんな感じ。

『風果つる街』夢枕獏 ★

真剣師のじじいが土地土地で将棋を指して風のように生きる将棋小説。登場する真剣師たちは誰もが「裏世界のハイエナ」「プロになれなかった自分」みたいな投げやり感・やけくそ感を抱いていて、どっか捨て鉢な悲しみがある。勝っても虚しい、負けても虚しいという緩やかな絶望感の中でなんとか日々を暮らす人々の描写は魅力があるんだけど、夢枕獏のブツ切りブツ切りの文章のリズムが自分にはどうしても合わなくてやたら読みにくかった。


小説以外にも将棋の本読んでるんですが、長くなるのでとりあえずここまで。『名人に香車を引いた男―升田幸三自伝』は升田四代名人が「俺つえー」って言う本で加藤一二三九段の本は

「俺の棒銀つえー」っていう本でした。